ブロックチェーンとは
ブロックチェーンは仮想通貨ビットコインの基幹技術として発明された概念。
ブロックチェーンとビットコインは混同して認識されることがあるが、ブロックチェーンはあくまで分散型台帳技術または分散型ネットワークであり、それを使用しているのがビットコインである。インターネットなどオープンなネットワーク上で、高い信頼性が求められる金融取引や重要データのやりとりなどを可能にする分散型台帳技術。その中心となるのがブロックチェーンだ。
今回は株式会社ブロックチェーンテックファームで同社CEOでもある籠原 吉広氏にお話をうかがった。
まず、株式会社ブロックチェーンテックファームとは2017年の12月に設立した、ブロックチェーン事業を中心としたベンチャー企業である。同社の前進として、約20年のコンサルティングを中心に、現在では幅広い企業や自治体にブロックチェーン技術を中心とした、ソリューションを提供している。
そして、お話をうかがったCEOの籠原氏とは過去大手企業から独立して企画やコンサル、飲食店の経営など様々な経歴を持つ。2014年のマウントゴックス事件をきっかけにビットコインに興味を持ち、ブロックチェーンの有用性に気づいたことで、現在は社会の発展、効率化を目標に掲げ活動している。
1.ブロックチェーンに興味を持ったきっかけ
2.ブロックチェーンテックファームが進めているブロックチェーン技術について
3.個人や企業はブロックチェーンをどのように活用できるのか
実際に進めているブロックチェーンプロジェクト
現在進めているプロジェクトとして“CO2排出取引のブロックチェーン化”というものがあるという籠原氏。
CO2排出取引とは気候変動枠組条約に関する議定書である京都議定書に基づき、各国家や各企業ごとに温室効果ガスの排出枠を定め、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えて排出してしまった国や企業との間で取引する制度である。
ブロックチェーンテックファームでは、CO2排出取引のエビデンスとして、トラックなどの車両にCO2計測専用のデジタルタコグラフを搭載し、CO2の削減量データを自動的にブロックチェーンに書き込む仕組みの実証実験を進めているという。
運送業、配送業でトラックを多く抱えている企業は、ドライバーのエコドライブによって、運送・配送業以外の利益を獲得することができる。
さらに、エコドライブは安全運転をしているエビデンスとなるため、保険料率の算定にも活用できる。走行距離や運転時間だけではなく、運転の仕方でも保険料を算定することが可能であり、安全運転をすれば保険料が下がるという時代もそう遠くはないであろう。そして、個人にもエコドライブでの保険料率が適用されることになれば、多くの人がエコドライブによる利益や保険料の割引などといった恩恵を受けられることになる。
そこで疑問になるのが、なぜブロックチェーン化する必要があるのかということなのだ。
冒頭でも述べた通り、ブロックチェーンはインターネットなどオープンなネットワーク上で、高い信頼性が求められる金融取引や重要データのやりとりなどを可能にする分散型台帳技術である。言い換えてしまえば、データの改ざんが不可能なので、得られたデータは信頼に値するエビデンスになるのである。
ブロックチェーンは、CO2排出取引や保険料率の算定など、シビアな部分での活用に適している技術なのだ。
籠原氏は「正しいことを人知れずやっても、それが証明される。正しく評価される。正しい人には自分に見返りが戻ってくるようなものを作っていきたい。」と、プロジェクトについて述べた。
自治体・地域社会がどのようにブロックチェーンを活用できるのか
籠原氏は自治体や地域社会にも地方創生としてブロックチェーン技術を提供することができると言う。
現在の日本社会は中央管理型で、東京などの都市部に地方が依存する形となっている。しかし、ブロックチェーンを導入することによって、中央は地方のサポートのみとなり、地方が中央に依存しない社会を作ることができるのだという。
例えば、各自治体にローカルでの使用を目的とした仮想通貨、「ご当地コイン」ができたとし、北海道コインや青森コインと言ったように、各県内のみで使用できるものだとする。
今ふるさと納税などで各地方にお金が入る仕組みはあるが、やはり円通貨は使ってしまえば県外に出て言ってしまう。その点では、ご当地コインは県外では使用できないので、地方の中で経済の循環が期待できる。ふるさと納税においても、円では1万円だがご当地コインだと8000円相当だとなれば使用者は増える。そして、使用者が増えればご当地コインの価値は上がるのだ。
使用者が増えたご当地コインは価値が変動するので、1コイン1円だったものが、1コイン2円にさらに使用者が増えれば1コイン10円にもなりえる。
各地方でご当地コインが誕生すれば、北海道コインが1.2円、青森コインが1.3円などのばらつきが発生し、それぞれの県はコインの価値を高める為に地方の産業を、そして他県に負けない魅力をそれぞれ伸ばす努力をする。
そうなれば、中央が地方を引っ張り上げるという構図ではなく、地方自体が経済的な力をつけてゆき、日本の経済を底上げしてくれる原動力となる。
現在籠原氏は各地方の商工会を回り、企業などと導入に向けて話を進めている。
さらに、ビットコインから学んだ教訓をここで生かしてると言い、「初めから県での導入ではなく、まずはプロジェクトに賛同してくれる市町村単位の地方公共団体から始められればいいと思っています。」と語った。
CBO教育プログラムとは
ブロックチェーンテックファームが進めるプロジェクトの一つ、CBO教育プログラムとは、各企業に新しい役職、ブロックチェーンを専門的に扱うCBO(チーフブロックチェーンオフィサー)を育て、配置していくことである。
様々な産業がある中で、企業がブロックチェーン技術で問題を解決しようとする場合、各業界を熟知した者が担当しなければ改善が必要な問題点を引き出すことができない。
CBOとはブロックチェーン技術者の知識だけではなく、ブロックチェーン理論に特化し、さらに各業界の専門家としての知識を持つ者なのである。
各企業に専門のCBOを設置することにより、企業でもブロックチェーンでの変革が起こり、業界の不平等や非効率は解消していくという。
現状、ブロックチェーンエンジニアも含め、技術者は圧倒的に足りないという。ブロックチェーンテックファームでは、各企業が進めだした自社でのブロックチェーン技術者育成を手伝うことのみならず、必要があれば人材を派遣、さらにCBOの配置を推進している。
ブロックチェーン業界が抱えている懸念材料
現在のブロックチェーン業界について、日本社会の問題点を交えて籠原氏が語ってくれた。
ブロックチェーンテックファームではデンマークでもプロジェクトを進めている。
なぜ、数ある国の中でデンマークを選んだとかと言うと、デンマークではブロックチェーンは国家をあげてのプロジェクトであるという位置付けだという。
デンマークからすると、いち外国ベンチャーである企業であっても、各財団の紹介や有益な情報などについて政府がバックアップしてくれるのだ。さらに、デンマークにオフィスを借りようとすると、国立大学の構内に企業のオフィスを紹介してくれるという。
実際に、デンマークの国立大学ではブロックチェーン関連の研究所のすぐ隣に様々な企業のオフィスがあるのだといい、大学の研究機関と企業が官民一体となって国からの予算を元に研究を進めているそうだ。
もちろん、籠原氏は元々日本を中心にブロックチェーンを進めようとしていたのだが、企業や団体にブロックチェーンの技術を説明しても、評価はしてくれるのだが、採用してくれなかったのだと言う。その根幹には、日本が新しいものに対して消極的な姿勢をとりやすい、変革を小さくしたいという考えがあるのだと籠原氏は言う。
日本はインフラがもうほとんど整っているので、今までのものを覆すことには消極的になってしまう。デンマークで行った実証実験のデータを日本に持っていくと、やっと認めてくれる。むしろその逆輸入の場合でなければ動いてくれず、デンマークがやっているのだから日本でやらなければとなるそうだ。中国や新興国でのブロックチェーン技術の導入が早かったのは、まだ整っていないインフラ部分に導入ができたのもあるが、新しい技術について積極的な姿勢で導入を進めたからだと話してくれた。
ブロックチェーン技術が広がり、個人や企業、または世界がどのように変わるのか
以前エストニアに会社を起こしたことがあるという籠原氏。
エストニアではeガバナンス、eガバメントを推進しており、結婚と離婚以外全ての手続きはブロックチェーンで管理され、自動化されている。日本では少し手間がかかるというイメージの住民票の取得も、エストニアでは24時間365日いつでも発行できるという。
さらに世界ではAirbnbやUberにみられるように、シェアリングエコノミーの感覚が幅広く浸透してきた。共存共栄、助け合いという考え方が広まっている現在、その精神を根幹にもつブロックチェーンは出てくるべくして、出てきた技術であり、数年後には日本にもブロックチェーンの技術が根付くであろう。
そして、ブロックチェーンという元々無価値であったものが、現在ではここまでの価値をもっている。それは数人から始まったブロックチェーンが世界中の人々の賛同を得られたことによるだろう。マーケットに費用をかけて宣伝したものが売れる今までの時代とは違い、今後は民意を勝ち取ったもの、本当に評判の良いものが勝ち残るような時代になるであろうと籠原氏は語ってくれた。
ブロックチェーン技術を使って、目指している世界について
様々なプロジェクトを手がけているブロックチェーンテックファームであるが、籠原氏はブロックチェーン技術を使って目指している世界を教えてくれた。
売れる前のお笑い芸人を例にすると、彼らは週に数回のライブをやり、生活をするための生活費は週のほとんどを割いてアルバイトをしている。ライブには自分たちを見にきてくれているファンがおり、本当はもっとライブなど芸人活動をしたいのだが、生活をするためには別の仕事をしなければならない。
そこで提案するのはライブチケットのトークン化である。ライブチケットをトークンにして前売り販売することにより、彼らは事前に収入を得ることができ、アルバイトなどもそれに合わせて調節できる。さらに、トークンは電子チケットのため、複数回トークンを買ってくれた人にはタイムスタンプなどを管理して優遇、権利を付与してあげることができ、ライブの場所なども路上や、お金をかけない場所を毎回指定することもできる。
あくまでも例で話してくれたのだが、籠原氏は様々な仕事をしてきた経験から、「世の中の人が自分の好きな仕事につけるような社会をブロックチェーン技術を使って作りたい、これが本当に今のモチベーションです」と熱く語ってくれた。
「将来的には量子コンピューターの登場により、改ざん不能であったブロックチェーンを書き換えられるような時代がくるかもしれない。しかし、今はブロックチェーンを広めることが仕事であり、その時がきたらさらに世の中に役立つ技術を広めていこうと思います。」と籠原氏は言い、最後には「これからは良い時代がきます」と締めくくってくれた。
株式会社ブロックチェーン テックファーム
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